猫の爪とぎ行動の真実:ストレスだけじゃない!学術が明かす「本能と快適さ」の心理

その爪とぎ、本当に“問題行動”?

「またソファで爪といだ…」「壁紙がボロボロ…」
猫と暮らしていると、爪とぎ行動は悩ましい問題です。でも、それは本当に“悪いこと”なのでしょうか?

かつては「猫が爪をとぐのはストレスや縄張り意識の表れ」と広く信じられていました。しかし、近年の動物行動学の研究では、その見方に変化が起きています。
今回は、最新の猫の爪とぎが持つ本当の意味や心理、適切な対処法を、学術的かつ楽しく読み解いていきましょう。

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猫の爪とぎ=生きるための必須行動だった!

まず大前提として知っておきたいのが、**猫の爪とぎは“野生時代からの本能行動”**だということです。
爪とぎは、単に爪を尖らせるだけではなく、以下の重要な役割を果たしています。

爪のメンテナンス

猫の爪は玉ねぎの皮のように層になっており、古くなった外層を削ぎ落とす必要があります。これを怠ると、爪が過剰に伸びてしまい、歩行やジャンプにも支障をきたすのです。

筋肉と関節のストレッチ

爪とぎ中に猫は背中を丸めたり前足を伸ばしたりします。これは人間でいう「朝のストレッチ」のようなもので、筋肉や腱の柔軟性維持に役立っています。

“快適さ”の表現としての爪とぎ

研究によれば、爪とぎは猫がリラックスしているとき、幸福感や安全を感じているときにも頻繁に行われるそうです。


学術的発見:「ストレス説」に揺らぎ

行動学研究者 が2025年に発表した論文では、1,200匹以上の家庭猫を調査。その結果、**「爪とぎとストレス・縄張り表示には直接的な相関がない」**という結論が出されました。

これはこれまでの通説を覆すものでした。さらに同研究では、“爪とぎの多さ”は「遊びの頻度」「睡眠の質」「生活リズム」などの環境要因と関連していることも明らかになっています。

つまり――
“ストレス行動”ではなく“日常的・健康的な習慣”としての行動という解釈が生まれたのです。


環境と爪とぎ行動の関係:面白い発見も!

別の研究では以下のような環境要因と爪とぎの頻度の関係が示されました:

環境要因爪とぎとの関係
子どもがいる家庭爪とぎがやや増える傾向(音・動きの刺激)
多頭飼いの家庭個体差が強く、一概に傾向は出ない
遊びの時間が多い活発な子ほどよく爪をとぐ傾向が強い
夜間活動が多い睡眠が乱れると、爪とぎ頻度も増加することあり

猫の“性格”と“生活環境”の組み合わせによって爪とぎの頻度が左右されることがわかります。


爪とぎ器の正しい設置法としつけがカギ!

爪とぎを止めさせることはできません。でも、家具や壁で爪をとぐのを防ぐ工夫は可能です。

① 複数設置が基本

猫は場所と素材に好みがあり、1匹につき2〜3個以上の爪とぎ器を用意するのが理想的です。

② 素材と形状にバリエーション

段ボール、麻縄、カーペット、木材などを組み合わせて置くと、猫の嗜好に合ったものが見つかりやすくなります。

③ 設置場所が超重要

爪とぎ器は「猫がよく通る場所」「寝起き後にすぐ行ける場所」に置くのがベストです。

④ 正の強化を使う

爪とぎ器を使ったらすぐに褒める・ご褒美を与えることで、猫はその場所を“いいことが起きる場所”と認識します。


過剰な爪とぎは異常のサインかも?

もし爪とぎの頻度が異常に多く、短時間に何度も繰り返したり、焦ったような動きを伴う場合は、以下のような可能性も考慮しましょう。

  • 猫過敏症候群(Feline Hyperesthesia Syndrome)
  • 分離不安や慢性的な不快感
  • 過剰グルーミングなど他の異常行動との併発

爪とぎは“叱る”ものではなく“理解すべき”もの

猫の爪とぎ行動は、健康維持・筋肉運動・安心感の表現・習慣行動など、非常に多面的です。
単にストレス発散だけと見るのではなく、日々の生活の中で猫が自分らしく過ごしている証拠と理解することが、飼い主としての愛情表現でもあります。

しつけではなく、サポートの発想で爪とぎと向き合えば、猫も飼い主もストレスフリーな毎日が過ごせます。






参考文献

[1]- Scratching in Domestic Cats: A Review of the Behaviour and Mitigation Strategies, Braggs, S., & Mills, D., 2025
猫の爪とぎはストレス行動ではなく、環境や習慣と関連する可能性が高いと示唆。約1,200匹以上の猫を対象に調査。


[2]-Environmental Enrichment is More Effective Than Punishment for Cat Scratching Issues, Lanza, J., & Rousseau, L. ,2024
適切な環境設定によって猫の問題的な爪とぎ行動が78%減少。懲罰よりも正の強化の方が3倍以上有効。


[3]-Scratching Behavior in Cats: Is it About Territory, Stress, or Comfort?, Coren, S.(Psychology Today掲載, 2025.6
行動学の視点から「ストレス説」だけで爪とぎを説明できないとし、快適性や身体的満足感との関連性を指摘。


[4]-Feline Behavioral Responses to Domestic Environments: Scratching and Marking Behaviors, Dubois, M., et al., 2024年
家庭内の音環境、子どもの存在、遊び頻度などと爪とぎ行動の関係性を統計的に分析。個体差が大きいことも明らかに。


[5]-Hyperesthesia Syndrome in Cats: A Review, Smith, A. & Nguyen, H. ,2023年,
猫過敏症候群(FHS)における過剰な爪とぎや異常行動との関連を詳述。ストレス行動との区別が重要とされる。


[6]-Feline Enrichment and Its Influence on Behavioral Health, Morrison, L., & Tang, E., 2022
猫にとっての環境刺激や選択肢がどのように日常行動に影響するかを研究。爪とぎ行動にも影響を及ぼす。