鶏は本当に「人間の顔」を見分けられるのか? ―― 背後にある驚きの知性

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                             ニワトリ ヒナ の科学

しかし科学は、鶏が社会性や学習能力、視覚的識別能力を持つことを示してきました。中でも「顔」を見分ける能力は、雛の段階から観察されており、私たちの認識を揺さぶります。

第1章 – ニワトリの“顔認識”って、どこまで?

実験では、視覚刺激にほとんど触れたことのない新生雛が「顔らしい配置(目・くちばし等)」を好み、最初に見た“ひとつの顔”をのちに識別できることが示されました。つまり、顔の構成を検出する初期メカニズムが備わっている可能性があります。

ポイント:雛が示す「顔好み」は、生後すぐに働く視覚的なバイアス(生まれつきの傾向)を示唆しています。

第2章 – “人の顔”だって大丈夫? ニワトリの人認識能力

面白いことに、鶏は人間の顔に対しても反応を示す研究があります。例えば、ある研究では人間の「平均顔」を基にした刺激に対する選好が観察され、人間の視覚的好み(対称性など)と似た傾向を示しました。これらの結果は、視覚系の一般的な性質が「顔の好み」を生む可能性を示唆します。

第3章 – “250人”説はどこから? 真偽と“誤解”の可能性

ネット上でしばしばみられる「鶏は250人の顔を覚えられる」という話。調べた範囲では、この具体的な“250人”という数字を直接支持する査読論文は確認できません。既存の研究は「雛が最初に見た顔を識別する」「複数の顔の中で見覚えのある顔を選べる」などを示しますが、数百人分の個別識別を検証したというエビデンスは見つかっていません。したがって250人説は誇張・口伝・個別の経験談が拡大したものと考えるのが妥当です。

第4章 – なぜニワトリが“顔”を見分けられるのか? その意味

鶏は群れで暮らし、仲間や飼育者との関係で生きる“社会性を持つ動物”です。個体を見分けることは、序列の把握や餌の分配、危険な相手の判別に直結します。顔認識はそのような社会生活で有利に働くため、選択的に残った能力と考えられます。これによりストレス低減や社会的安定が期待できる、という解釈です。

第5章 – “鶏を見直す”ということ――私たちにとっての意味

科学的知見は、鶏を見る私たちの視点を変えるきっかけになります。畜産・ペット・教育といった実務面で、動物福祉や接し方、環境設計の見直しにつながる可能性があります。また、動物の認知研究は「知性」や「社会性とは何か」を考えるための重要な材料でもあります。

まとめ

  • 鶏は生後まもない段階から「顔らしい刺激」を識別し、個別の顔を記憶できる能力があることが示されています。
  • しかし、「250人の顔を見分ける」という特定の数字を裏付ける学術的証拠は現在確認できません。
  • それでも、鶏を「認知と感情を持つ生き物」として捉えることは、実践的にも倫理的にも有益です。

参考文献

  1. Wood SMW et al., “Face recognition in newly hatched chicks at the onset of vision.”(2015)
  2. Kobylkov D. et al., “Innate face-selectivity in the brain of young domestic chicks.”(2024)
  3. Rosa-Salva O. et al., “Faces are special for newly hatched chicks”(2010)
  4. Ghirlanda S., Jansson L., Enquist M., “Chickens prefer beautiful humans.”(2002)