汗のにおいだけでOK!?犬がストレスを「感じ取る」仕組みとは

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犬が「何か変だ」と感じる瞬間

あなたが不安だったり、イライラしていたり、なんとなく気分が重いとき──
ふと愛犬がそっと寄ってきたり、あなたをじっと見つめたり、落ち着かない様子を見せた経験はありませんか?
そんなとき、「気のせい?」と思ってしまいがちですが、実はそれ、犬の鼻が「あなたのストレス」を察知している可能性があります。
最近の科学研究をもとに、「汗や呼気の匂い」で犬が人間の“心の状態”を感じ取る仕組みを解説します。


犬の嗅覚は人間の何倍も鋭い — “においレーダー”としての能力

まず押さえておきたいのが、犬の持つ驚異的な嗅覚の力です。
犬は人間に比べて何十倍〜何百倍もの「におい受容体」を持ち、ごく微量な化学物質の変化をキャッチできます。
そのため、人間がほとんど気づかないような“汗の匂い”や“呼気の匂い”のわずかな違いも、犬にとっては鮮明に区別可能。
つまり、匂いは犬にとって“視覚”や“声”と同じくらい、あるいはそれ以上に重要な情報源なのです。


犬は人間の「ストレス臭」を嗅ぎ分けられる

2022年に Queen's University Belfast の研究チームが発表した論文(PLOS ONE)によると、以下のような実験が行われました。 (ScienceDaily)

  • 被験者36人に、まず「リラックス時の汗と呼気(息)」を採取。
  • その後、プレッシャーのかかる暗算課題を実施し、ストレス状態になった後の汗と呼気を再度採取。
  • その2種類のサンプル(リラックス時 vs ストレス時)を、4頭の訓練された犬に嗅がせる。
  • 結果、犬たちはストレス時のサンプルを 試行720回のうち675回 正しく識別(成功率 93.75%)という驚異の正確さ。 (Phys.org)

このことから、「人間がストレスを感じると、体(汗・呼吸)が放つ匂いの化学成分が変化する」という仮説が支持され、犬はその変化を敏感に捉えていた、という結論が導き出されています。 (BIOENGINEER.ORG)

つまり――
視覚や言葉、声のトーンなどは一切関係なく、「汗・呼吸の匂いだけ」で犬は人間のストレスを感じ取ることができるのです。


なぜ「汗のニオイだけでOK」の理由

この実験のすごいところは、対象となった犬が被験者を知らない他人であっても、匂いだけでストレス状態を判別できたという点。 (EurekAlert!)

  • 見た目・声・雰囲気に一切手がかりがない状態でもOK。
  • 匂いの変化は肉眼でも音声でも捉えられないほど微妙なもの。
  • それでも犬は“違い”を識別して反応する。

このことから、日常生活であなたが「普通にしている」と感じていても、ストレスや不安という“内部の変化”は、犬には伝わってしまっている可能性が高い――。
「汗のニオイだけでOK」と言われても不思議ではありません。


飼い主へのメッセージ — 犬はただのペットではなく“感情のバロメーター”

  • あなたのストレスや不安は、たとえ見えなくても、愛犬には感じ取られているかもしれない
  • 犬はあなたの“内面”を敏感にキャッチするパートナー。だからこそ、飼い主が心と体を大切にすることは、犬への優しさにもつながります。
  • 疲れていたり、気持ちが沈んでいたりするときは、深呼吸したり、ちょっと休憩をとったり――。それだけで、犬の安心感も守れるかもしれません。

犬と暮らす上で、私たちが気づかない“におい”や“化学の変化”が、犬にとっては重要なサイン。
だからこそ、意味のある「言葉ではないコミュニケーション」が、私たちと犬との間に確かにあるのです。


まとめ — 匂いは言葉より雄弁。言わなくても、犬には伝わる。

飼い主が感じるストレスや不安は、汗や呼気の匂いに反映され、それを犬は鋭く嗅ぎ分ける。
この事実は、「昔から言われていた“犬は飼い主の気持ちがわかる”」という経験を、科学が裏付けたものとも言えるでしょう。
だからこそ、愛犬との信頼関係を育むには、見える部分だけでなく、自分の心や体の状態にも目を向けることが大切です。


参考文献

  1. 犬が人間のストレス時の汗・呼気の化学的変化を識別できることを示した研究。Queen’s University Belfast(2022)
  2. ストレス前後の汗・呼気サンプルを比較し、犬が高精度で嗅ぎ分けたと報告。PLOS ONE 掲載論文(2022)
  3. ストレス臭を嗅いだ犬がよりネガティブな判断傾向を示す可能性を示した研究。University of Bristol(2024)